実践パターン集
RxJSの基礎知識を習得したら、次は実際のアプリケーション開発で「どう使うか」が重要になります。この章では、実務で頻繁に遭遇するシナリオに対する具体的な実装パターンを紹介します。
なぜ実践パターンが重要か
RxJSの個々のオペレーターを理解していても、それらを組み合わせて実際の問題を解決するには経験とパターンの知識が必要です。実践パターンを学ぶことで、
- 開発速度の向上 - 車輪の再発明を避け、実証済みのパターンを適用できる
- 品質の向上 - エラーハンドリングやメモリリーク対策などのベストプラクティスを習得
- 保守性の向上 - 一貫したパターンでコードの可読性と保守性が改善
- トラブルシューティング - 問題の原因を特定し、適切な解決策を選択できる
この章の構成
実践パターンは、難易度と使用頻度に応じて3つのフェーズに分けて解説します。
コアパターン(最頻出)
実務で最も頻繁に使用される基本的なパターンです。まずはこれらをマスターしましょう。
| パターン | 内容 | 主な対象 |
|---|---|---|
| UIイベント処理 | クリック、スクロール、ドラッグ&ドロップなどのUI操作 | フロントエンド全般 |
| API呼び出し | HTTP通信、並列/直列処理、エラーハンドリング | Web API連携 |
| フォーム処理 | リアルタイムバリデーション、自動保存、複数フィールド連携 | フォーム実装 |
高度なパターン
より複雑なシナリオに対応する高度なパターンです。
| パターン | 内容 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 高度なフォームパターン | JSON Patch、大規模フォーム自動保存、Undo/Redo、共同編集 | エンタープライズフォーム |
| リアルタイムデータ処理 | WebSocket、SSE、Polling、接続管理 | リアルタイム通信 |
| キャッシュ戦略 | データキャッシュ、TTL、無効化、オフライン対応 | パフォーマンス最適化 |
専門パターン
特定の課題に対する専門的なパターンです。
| パターン | 内容 | 主な対象 |
|---|---|---|
| エラーハンドリング実践 | API呼び出しエラー、リトライ戦略、グローバルエラー処理 | エラー管理 |
| subscribe内の条件分岐 | subscribe内での分岐を避ける、パイプライン内での分岐方法 | コード品質 |
学習の進め方
初学者は Phase 1 から順に進めることを推奨します。特に「API呼び出し」と「フォーム処理」は実務で必須のパターンです。
パターンの構成
各パターンページは以下の構成で解説されています。
- 問題の説明 - このパターンが解決する課題
- 基本的な実装 - 最もシンプルな実装例
- 実践的な例 - 実務で使える具体的なコード
- Before/After比較 - 改善前後のコード比較
- 注意点とベストプラクティス - よくある間違いと対策
- TypeScript型定義 - 型安全な実装方法
- テストコード - パターンのテスト方法
- パフォーマンス考慮 - メモリリークやパフォーマンス最適化
パターン選択のガイドライン
実装する機能に応じて、適切なパターンを選択するためのガイドラインです。
ユーザー入力を扱う場合
データ取得を扱う場合
エラー処理を強化したい場合
実装時の考え方
RxJSパターンを実装する際の基本的な考え方を紹介します。
1. 宣言的に考える
「何をしたいか」を宣言的に表現し、手続き的なコードを避けます。
// ❌ 手続き的(命令的)
let result = [];
source.subscribe(value => {
if (value > 10) {
const transformed = value * 2;
result.push(transformed);
}
});
// ✅ 宣言的
const result$ = source.pipe(
filter(value => value > 10),
map(value => value * 2)
);2. パイプラインで処理を組み立てる
小さなオペレーターを組み合わせて、複雑な処理を構築します。
const searchResults$ = searchInput$.pipe(
debounceTime(300), // 入力を300ms待機
distinctUntilChanged(), // 重複を除外
filter(query => query.length >= 2), // 2文字以上で検索
switchMap(query => searchAPI(query)), // API呼び出し
catchError(err => of([])) // エラー時は空配列
);3. メモリリークを防ぐ
購読の適切な管理は必須です。
// ✅ takeUntilで自動解除
private destroy$ = new Subject<void>();
ngOnInit() {
this.data$.pipe(
takeUntil(this.destroy$)
).subscribe(/*...*/);
}
ngOnDestroy() {
this.destroy$.next();
this.destroy$.complete();
}4. エラーハンドリングを忘れない
すべての非同期処理にはエラーハンドリングを実装します。
// ✅ catchErrorで適切にエラー処理
apiCall$.pipe(
retry(3),
catchError(err => {
console.error('API error:', err);
return of(defaultValue);
})
).subscribe(/*...*/);5. 型安全性を活用する
TypeScriptの型システムを最大限活用します。
interface User {
id: number;
name: string;
email: string;
}
// ✅ 明確な型定義
const users$: Observable<User[]> = fetchUsers();
const activeUsers$: Observable<User[]> = users$.pipe(
map(users => users.filter(u => u.isActive))
);既存知識との関連
この章のパターンは、以前の章で学んだ知識を実践で応用します。
| 実践パターン | 関連する章 | 活用する知識 |
|---|---|---|
| UIイベント処理 | Chapter 4: オペレーター | debounceTime, throttleTime, distinctUntilChanged |
| API呼び出し | Chapter 6: エラーハンドリング | catchError, retry, timeout |
| フォーム処理 | Chapter 3: Creation Functions | combineLatest, withLatestFrom |
| 高度なフォームパターン | Chapter 4: 変換オペレーター | pairwise, scan, bufferTime, concatMap |
| リアルタイムデータ | Chapter 5: Subject | Subject, BehaviorSubject, shareReplay |
| キャッシュ戦略 | Chapter 2: Cold/Hot | shareReplay, share |
| エラーハンドリング | Chapter 6: エラーハンドリング | catchError, retry, retryWhen |
| subscribe分岐 | Chapter 10: アンチパターン | アンチパターンの回避 |
復習のタイミング
各パターンを学ぶ前に、関連する章を復習することで理解が深まります。
よくある質問
Q1: どのパターンから学ぶべきですか?
A: 実務で最も使用頻度が高い順に学ぶことを推奨します。
- API呼び出し - Web開発の基本
- フォーム処理 - ユーザー入力処理
- UIイベント処理 - インタラクティブなUI
- エラーハンドリング - 堅牢なアプリケーション
- その他のパターン - プロジェクトのニーズに応じて
Q2: パターンをそのまま使っても良いですか?
A: はい。この章のパターンは実務での使用を想定しています。
ただし、
- プロジェクトの要件に応じてカスタマイズしてください
- パフォーマンスやメモリ使用量を考慮してください
- チームのコーディング規約に従ってください
Q3: Angular/React/Vueで使えますか?
A: はい。この章のパターンはフレームワーク非依存です。
ただし、
- フレームワーク固有の統合方法は Chapter 15: フレームワーク統合(準備中)を参照
- 各フレームワークのライフサイクルに合わせた購読解除が必要
まとめ
実践パターン集は、RxJSを実際のプロジェクトで活用するための具体的なガイドです。
重要なポイント
- Phase 1のコアパターンから順に学習する
- Before/After比較で改善点を理解する
- メモリリーク対策を必ず実装する
- エラーハンドリングを忘れない
- 型安全性を活用する
学習のヒント
- コードを実際に動かして理解を深める
- 自分のプロジェクトに適用してみる
- パターンを組み合わせて複雑な処理を構築する
- テストコードも併せて学習する
次のステップとして、最も使用頻度の高い API呼び出しパターン から始めることを推奨します。
参考リソース
- RxJS公式ドキュメント - 公式のAPIリファレンス
- Learn RxJS - オペレーター別の実践例
- RxJS Marbles - ビジュアルでオペレーターの動作を理解
- Chapter 11: RxJS困難点克服 - よくある困難とその克服方法
- Chapter 10: アンチパターン集 - 避けるべきパターン