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生成AIの設計パターンとMCPの位置づけ

LLMの「知識の限界」に対して、業界はどのようなアプローチを取ってきたか。その中でMCPはどこに位置し、何が違うのか。

このページの位置づけ

01-visionWHY — なぜブレない参照先が必要か)
02-reference-sourcesWHAT — 何を参照先とするか)
03-architectureHOW — どう構成するか)
本ページ(WHICH — どのパターンをいつ選ぶか)

前章までの抽象的なアーキテクチャを、具体的な設計判断に落とし込むためのパターン集である。各パターンは「採用すべきもの」ではなく、条件が整えば成立するが、前提が崩れると機能しなくなる構造として記述している。

メタ情報
この章で固定するものRAG / MCP / Fine-tuning / Prompt Engineering の位置づけと選択基準、アンチパターン
扱わないこと各パターンの実装手順、モデルの学習方法、特定フレームワークの使い方
依存03-architecture(三層モデルの構造定義)
誤用ポイントパターンを「銀の弾丸」として扱うこと。各パターンには Failure Risk(崩壊条件)がある

このドキュメントについて

生成AI(LLM)を実用的なシステムに組み込むためには、モデル単体の能力だけでは不十分である。AIの知識には限界があり(01-vision 参照)、それを補うためにさまざまな設計パターンが生まれてきた。

このドキュメントでは、代表的な設計パターンを俯瞰し、特にRAG(Retrieval-Augmented Generation)とMCPの違いを丁寧に解説する。「RAGとMCPは何が違うのか?」「なぜこのプロジェクトはMCPを選んでいるのか?」という疑問に答えることが目的である。

Architecture → Design Patterns の関係

ソフトウェア開発において、Architecture(構造)は Design Pattern(実践手法)の上位に位置する。本プロジェクトにおいても同様の関係が成り立つ。

Architecture は「何を、どこに配置するか」を定め、Design Patterns は「具体的にどう実現するか」を示す。両者は相互に参照し合う関係にある。

LLMの「知識の限界」— なぜ外部知識が必要なのか

LLMは大量のテキストデータから学習した確率的な生成モデルである。非常に幅広い知識を持つが、以下の限界がある(詳細は 02-reference-sources.md 第1章を参照)。

LLMの知識
┌─────────────────────────────────────────┐
│  ✅ 学習済みの知識(膨大だが固定)        │
│     - 一般知識、プログラミング、言語       │
│     - 学習時点までの情報                   │
├─────────────────────────────────────────┤
│  ❌ 持っていない知識                      │
│     - 学習カットオフ以降の情報              │
│     - 社内ドキュメント・独自データ          │
│     - 稀な専門知識(マイナーなRFCの詳細等) │
│     - リアルタイム情報                     │
└─────────────────────────────────────────┘

この「持っていない知識」を補うために、さまざまな設計パターンが考案されてきた。

生成AIの主な設計パターン

2.1 パターンの全体像

LLMの限界を補うための主要な設計パターンを以下に整理する。

2.2 各パターンの概要

RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)

外部のドキュメントを検索し、関連する情報をLLMのプロンプトに注入する手法。LLM自体を変更せず、「検索 + 生成」を組み合わせる。

ポイント: RAGの核心は「ベクトル類似度」で情報を検索すること。ドキュメントを小さな断片(チャンク)に分割し、質問と意味的に近い断片を取り出してLLMに渡す。

特性説明
対象非構造化テキスト(ドキュメント、FAQ、社内Wiki等)
検索方式ベクトル類似度検索(セマンティック検索)
前処理ドキュメントのチャンク化 → ベクトル化 → DB格納
強み大量の文書から関連情報を見つけられる
弱みチャンク分割で文脈が失われる、構造を理解しない

MCP(Model Context Protocol)

AIモデルと外部ツール・サービスを接続するための標準プロトコル。Anthropicが策定。AIが構造化されたAPIを通じて外部データにアクセスし、アクションを実行できるようにする。

ポイント: MCPの核心は「構造化されたAPI」で情報にアクセスすること。ドメインの構造(セクション、要件レベル、相互参照等)を理解した上でデータを取得する。

特性説明
対象構造化されたデータ・API・外部サービス
アクセス方式構造化API呼び出し(JSON-RPC)
前処理不要(MCPサーバーが構造を理解)
強み正確なデータ取得、検証可能、配布可能
弱みMCPサーバーの開発が必要

MCPの詳細: mcp/what-is-mcp.md を参照。

Fine-tuning(ファインチューニング)

LLMのパラメータ自体を、特定ドメインのデータで追加学習させる手法。モデルの「内部知識」を書き換える。

ベースモデル(GPT-4, Claude等)
    ↓ + 特定ドメインのデータで追加学習
カスタマイズされたモデル

ドメイン固有の知識で回答可能
特性説明
対象ドメイン固有の知識・スタイル
変更箇所モデルのパラメータ自体
コスト高い(学習データ準備 + 計算資源)
強みモデルに深く知識を埋め込める
弱み更新が困難、ハルシネーションの完全排除は不可能

Prompt Engineering(プロンプトエンジニアリング)

モデルのパラメータを変えず、入力プロンプトの工夫だけで出力品質を制御する手法。

主な技法:
- Zero-shot:     指示のみ
- Few-shot:      例を数個添える
- Chain-of-Thought: 「ステップバイステップで考えて」
- System Prompt: 役割や制約を事前に定義
特性説明
対象あらゆるタスク
変更箇所入力プロンプトのみ
コスト最も低い
強みすぐに試せる、モデル変更不要
弱みモデルが知らない知識は補えない

Agentic AI(エージェント型AI)

LLMが自律的に計画を立て、ツールを呼び出し、複数ステップで問題を解決するパターン。MCPはこのパターンを支える基盤技術の一つ。

特性説明
対象複合的・多段階のタスク
動作自律的な計画 → 実行 → 検証のループ
依存MCP(ツール接続)、Skills(知識参照)
強み複雑なタスクを自動化できる
弱み予測困難、制御が難しい場合がある

エージェントの詳細: 03-architecture.md を参照。

GraphRAG

通常のRAGにナレッジグラフ(知識グラフ)を組み合わせ、エンティティ間の関係性を活用する手法。

通常のRAG:  ドキュメント → チャンク → ベクトル検索
GraphRAG:   ドキュメント → エンティティ抽出 → 関係グラフ構築 → グラフ検索
特性説明
対象エンティティ間の関係性が重要なデータ
強み「AはBにどう関係するか」に強い
弱みグラフ構築コストが高い

2.3 パターンのカテゴリ分類

各パターンは、その主な関心事に基づいて4つのカテゴリに分類できる。

カテゴリパターン主な関心事
知識注入RAG, MCP, GraphRAGLLMが持たない外部知識を補完する
推論強化Prompt Engineering, Chain-of-ThoughtLLMの思考プロセスを制御・改善する
自律行動Agentic AI複数ステップの計画・実行・検証を自律化する
モデル強化Fine-tuningモデル自体のパラメータを書き換える

この分類は排他ではない。Agentic AI は内部で知識注入(MCP/RAG)や推論強化(Prompt Engineering)を組み合わせて利用する。

2.4 パターンの比較一覧

パターンカテゴリ解決する問題変更箇所コストリアルタイム性導入難度崩壊リスク
RAG知識注入知識の補完プロンプト△(インデックス更新頻度依存)★★☆チャンク品質に依存
MCP知識注入ツール接続・正確なデータ取得プロンプト中〜高◎(リアルタイム)★★☆サーバー停止時
Fine-tuningモデル強化ドメイン特化モデルパラメータ✗(再学習が必要)★★★データ汚染時
Prompt Engineering推論強化出力品質制御プロンプト-★☆☆低(最も安全)
Agentic AI自律行動複合タスク自動化アーキテクチャ★★★制御喪失時
GraphRAG知識注入関係性理解プロンプト + グラフ★★★グラフ品質に依存

「崩壊リスク」の読み方

各パターンは「銀の弾丸」ではない。崩壊リスク列は、そのパターンが機能しなくなる主な条件を示す。設計時にはこのリスクに対するフォールバック戦略を検討すること。

2.5 パターンは排他ではない

これらのパターンは互いに排他的ではなく、組み合わせて使うものである。

例えば、Agentic AIがPrompt Engineeringで適切に指示を受け、必要に応じてRAGで社内文書を検索し、MCPで標準仕様を確認する、というシステムは十分にありえる。

2.6 よくあるアンチパターン

設計パターンを誤用すると、期待と逆の結果を生むことがある。

アンチパターン説明発生しやすい状況
RAG万能信仰すべての知識補完をRAGで解決しようとする構造化データに対してチャンク検索を適用し、精度が低下する
過剰エージェント化単純なタスクにもAgentic AIを適用するエージェントの自律判断が不要な場面でオーバーヘッドと予測困難性が増大する
Fine-tuning依存変化する知識をモデルパラメータに埋め込む法改正・仕様更新のたびに再学習が必要になり、運用コストが破綻する
プロンプト肥大化Prompt Engineeringで全てを制御しようとするコンテキストウィンドウを圧迫し、本来の知識注入の余地がなくなる

アンチパターンの回避には、各パターンの前提条件崩壊リスク(2.4節の比較表参照)を理解した上で選択することが重要である。

RAGを深く理解する

3.1 RAGの仕組み

RAGは2020年にMeta(旧Facebook)の研究チームが発表した手法で、LLMに外部知識を与える最も普及したパターンである。

ステップ1: インデックス構築(オフライン)

元ドキュメント
  「RFC 6455はWebSocketプロトコルを定義する。
   Section 5.5.1ではClose frameの形式を規定し、
   Section 7.4.1ではステータスコードを定義する。
   1006は異常クロージャを示し、Close frameに
   含めてはならない(MUST NOT)。」

    ↓ チャンク分割

チャンク1: 「RFC 6455はWebSocketプロトコルを定義する。
           Section 5.5.1ではClose frameの形式を規定し」
チャンク2: 「Section 7.4.1ではステータスコードを定義する。
           1006は異常クロージャを示し」
チャンク3: 「Close frameに含めてはならない(MUST NOT)。」

    ↓ ベクトル化(Embedding)

チャンク1 → [0.12, -0.34, 0.56, ...]  ← 数百〜数千次元の数値ベクトル
チャンク2 → [0.23, -0.11, 0.78, ...]
チャンク3 → [0.45, -0.67, 0.12, ...]

    ↓ ベクトルDBに格納

ステップ2: 検索と生成(オンライン)

ユーザーの質問: 「WebSocketのステータスコード1006とは?」

    ↓ 質問もベクトル化

質問ベクトル → [0.21, -0.15, 0.72, ...]

    ↓ 類似度検索(コサイン類似度等)

最も近いチャンク → チャンク2:
  「Section 7.4.1ではステータスコードを定義する。
   1006は異常クロージャを示し」

    ↓ プロンプトに注入

「以下の情報を参考に質問に回答してください。
 ---
 Section 7.4.1ではステータスコードを定義する。
 1006は異常クロージャを示し
 ---
 質問: WebSocketのステータスコード1006とは?」

    ↓ LLMが回答生成

3.2 RAGの強みと典型的なユースケース

RAGが特に有効な場面を以下に整理する。

ユースケース説明
社内文書検索大量の内部ドキュメントからの情報取得社内Wiki、マニュアル、FAQ
カスタマーサポート製品知識ベースからの回答生成ヘルプセンター、チャットボット
学術研究論文データベースからの関連情報抽出文献レビュー支援
法務支援契約書・判例の類似検索類似条項の発見

RAGが得意なこと: 大量の非構造化テキストから「意味的に近い」情報を見つけること。

3.3 RAGの限界

一方で、RAGには構造的な限界がある。

チャンク分割による文脈の喪失

元の文脈:
  「1006は異常クロージャを示し、Close frameに
   含めてはならない(MUST NOT)。」

チャンク分割後:
  チャンク A: 「1006は異常クロージャを示し」    ← 検索で取得
  チャンク B: 「Close frameに含めてはならない」  ← 取得されない可能性

→ MUST NOT という重要な要件が欠落するリスク

構造の理解不足

RAGが返すもの:
  「1006は異常クロージャを示す」(テキスト断片)

RAGが返せないもの:
  - これが Section 7.4.1 に定義されていること
  - MUST NOT レベルの要件であること
  - Section 5.5.1 の Close frame 形式との関係
  - RFC 6455 全体での位置づけ

検索精度の限界

ベクトル類似度検索は「意味的に近い」ものを返すが、「正確に一致する」ものを返すとは限らない。

質問: 「RFC 6455のステータスコード1002の意味は?」

返される可能性のあるチャンク:
  ✅ 「1002はプロトコルエラーを示す」(正しい)
  ❌ 「1006は異常クロージャを示す」(意味的に近いが、聞いてないもの)
  ❌ 「1000は正常なクロージャを示す」(同カテゴリだが別のコード)

3.4 Advanced RAG — 限界を緩和する試み

上記の限界に対して、RAGを拡張する手法(Advanced RAG)が研究・実装されている。

手法解決する限界概要
Hybrid Search検索精度ベクトル検索 + キーワード検索(BM25等)を併用し精度向上
Re-ranking検索精度初回検索結果をクロスエンコーダで再ランキング
Parent-Child Chunking文脈喪失小チャンクで検索し、親チャンク(広い文脈)を返す
HyDE検索精度LLMが仮想回答を生成し、それをクエリとして検索

これらの手法はRAGの弱点を緩和するが、構造化データに対するMCPの精度を超えるものではない。データの性質に応じた使い分けの原則は変わらない。

RAGのアーキテクチャ上の位置づけ — 利用者は何をすべきか

RAGの仕組みを理解した上で、よくある疑問がある。

「RAGが重要なのは分かった。で、自分は何をすればいいの?

この疑問に答えるために、RAGをこのプロジェクトのアーキテクチャの中に位置づける。

3.5.1 RAGは「標準」ではなく「設計パターン」

まず重要な前提として、RAGは標準化されたプロトコルではない

項目RAGMCPSkills
種別設計パターン(デザインパターン)標準プロトコル(仕様あり)仕様(Agent Skills Spec)
標準化なし(RFC・W3C仕様は存在しない)modelcontextprotocol.ioagentskills.io
実装の統一性各社独自(LangChain, LlamaIndex, Bedrock等)標準SDK(TypeScript/Python)標準フォーマット(SKILL.md)
相互運用性なしあり(どのエージェントでも接続可能)あり(16+エージェント対応)

つまり、RAGは「検索して → コンテキストに注入して → 生成する」という概念レベルの合意があるだけで、具体的な実装方法は実装者に委ねられている。

3.5.2 RAGはエージェント内部の処理パイプライン

RAGの処理は、ユーザーから見るとエージェントの内部処理として実行される。

ここでのポイントは

  • ユーザーが「何を検索するか」「どんな知識を使うか」を定義する → Skills と MCP
  • それを「どう検索してどう注入するか」はエージェントが判断する → RAGパイプライン

ユーザーは RAG を直接操作するのではなく、Skills と MCP を通じて間接的に RAG の恩恵を受ける

3.5.3 利用者として何をすべきか

RAGの恩恵を最大限に受けるために、利用者ができることを整理する。

やるべきこと具体的なアクションRAGとの関係
Skills を定義する翻訳品質基準、コードレビュー観点、仕様準拠チェックリストなどを SKILL.md で記述エージェントが参照する「静的知識ベース」となる
MCP を接続するベクトルDB、RFC、法令、DeepL などの MCP サーバーを設定エージェントが検索する「外部データソース」となる
CLAUDE.md を書くプロジェクトの方針、用語定義、制約条件を記述エージェントの「コンテキスト」として常時注入される

まとめ: RAGそのものを構築・制御する必要はない。Skills・MCP・CLAUDE.md という標準化されたインターフェースを通じて、エージェントに「何を知っているべきか」を伝えることが利用者の役割である。

RAGとMCPの本質的な違い

4.1 アプローチの根本的な違い

RAGとMCPはどちらも「LLMに外部知識を与える」が、そのアプローチは根本的に異なる。

観点RAGMCP
検索の原理テキストの意味的類似度ドメイン構造に基づく正確なクエリ
前提ドキュメントをチャンク化できるドメインの構造を理解したAPIがある
結果の性質「おそらく関連する」テキスト断片「確実に該当する」構造化データ
出典の明確さ曖昧(どのチャンクから来たか追跡困難)明確(RFC 6455 Section 7.4.1 等)

4.2 「ブレない参照先」の5特性による比較

02-reference-sources.md で定義した「ブレない参照先」の5つの特性で比較すると、違いがさらに明確になる。

特性RAGMCP(参照先MCP)説明
権威性RAGはチャンクの出典が曖昧。MCPは原典に直接アクセス
不変性・版管理RAGはインデックス更新タイミングに依存。MCPは原典の版管理を反映
構造化RAGはチャンク分割で構造が失われる。MCPはセクション・要件レベルを保持
検証可能性RAGは「どのチャンクから生成したか」の追跡が困難。MCPは正確な出典を明示
アクセス可能性どちらもプログラムでアクセス可能だが、MCPは標準プロトコル

4.3 具体例で比較する

例:「RFC 6455のClose codeで1006の意味は?」

RAGの場合:

1. RFC 6455の全文をチャンク化してベクトルDBに格納(事前準備)
2. 質問をベクトル化し、類似チャンクを検索
3. 返されたチャンク:
   「1006 is a reserved value and MUST NOT be set as a status code
    in a Close control frame by an endpoint.」

問題点:
- このチャンクが Section 7.4.1 から来たことが不明確
- MUST NOT の要件レベルがメタデータとして付与されない
- 前後の文脈(なぜMUST NOTなのか)が欠落する可能性
- 別のチャンク(1002の説明等)が返る可能性もある

rfcxml-mcp の場合:

1. get_requirements(rfc=6455, section="7.4.1") を呼び出し
2. 返される結果:
   {
     section: "7.4.1",
     requirement: "1006 is a reserved value and MUST NOT be set
                   as a status code in a Close control frame
                   by an endpoint.",
     level: "MUST NOT",
     context: "It is designated for use in applications
               expecting a status code to indicate that
               the connection was closed abnormally"
   }

利点:
- セクション番号が明確(Section 7.4.1)
- 要件レベルが構造化(MUST NOT)
- 前後の文脈が保持
- validate_statement() で実装の適合性まで検証可能

例:「電子署名法第2条の要件は?」

RAGの場合:

法令全文をチャンク化 → 「第2条」関連のチャンクを検索
→ 法令の「条・項・号」の構造が失われる
→ 改正前と改正後の版が混在するリスク

hourei-mcp(e-gov-law MCP)の場合:

find_law_article(law_name="電子署名法", article_number="2") を呼び出し
→ 条文の構造(項・号)がそのまま取得できる
→ 最新の法令データを取得(e-Gov APIからリアルタイム)

4.4 配布可能性の違い

MCPには「標準プロトコルとして配布できる」という決定的な優位性がある。

RAGパイプラインの共有:
  1. ドキュメントの準備
  2. チャンク分割ロジックの実装
  3. Embedding モデルの選定
  4. ベクトルDBの構築・運用
  5. 検索パラメータの調整
  → 各組織が個別に構築する必要がある

MCPサーバーの共有:
  npx @shuji-bonji/rfcxml-mcp
  → これだけで、構造化されたRFCアクセスを誰でも得られる
観点RAGMCP
配布方法独自構築が前提npm パッケージ等で配布可能
導入コストベクトルDB構築 + インデックス作成設定ファイル1つ
品質の均一性構築者のスキルに依存サーバー開発者が品質保証
メンテナンス各組織が個別に対応サーバー開発者が一括更新

このプロジェクトのMCPサーバーとRAGの比較

5.1 「一見RAGと同じでは?」という疑問

このプロジェクトの関連MCPサーバー(rfcxml-mcp、w3c-mcp、pdf-spec-mcp、epsg-mcp等)を見ると、「外部の仕様書を検索してLLMに渡す」という点でRAGと同じことをしているように見えるかもしれない。

しかし、根本的な違いがある。

5.2 「テキスト検索」vs「ドメイン知識のコード化」

各MCPサーバーは、対象ドメインの構造と意味を理解したAPIを提供している。これは単なるテキスト検索ではなく、ドメイン知識のコード化である。

MCPサーバー理解している構造RAGでは失われるもの
rfcxml-mcpセクション階層、MUST/SHOULD/MAY分類、RFC間の相互参照(obsoletes/updates)要件レベルの区別、セクション間の関係
w3c-mcpWebIDL定義、CSS仕様構造、HTML要素の属性とコンテンツモデルインターフェースの型情報、プロパティの継承関係
pdf-spec-mcpISO 32000の章構造、要件テーブル、用語定義テーブル構造、仕様バージョン間の差分
epsg-mcp座標参照系の用途推奨、変換パス、精度特性空間的な適用範囲、変換の精度情報
pdf-reader-mcpPDFの内部オブジェクト構造、タグ階層、フォント情報バイナリ構造の解釈、オブジェクト間の参照関係

5.3 実用上の差異

RAGとMCPの使い分け

6.1 判断フロー

6.2 使い分けガイド

シナリオ推奨理由
RFC/W3C等の仕様準拠確認MCP構造化された要件抽出が必要
社内ドキュメントの検索RAG非構造化テキストの大量検索
法令の条文取得MCP条・項・号の構造を保持する必要
カスタマーサポートFAQRAG多様な質問への柔軟な対応
翻訳の品質評価MCP構造化されたスコアとエラー検出
研究論文の要約RAG大量の非構造化テキストの処理
PDF仕様の要件チェックMCPテーブルと要件レベルの正確な取得
チーム内ナレッジ共有RAG or Skill状況に応じて選択

6.3 併用パターン

RAGとMCPは排他的ではない。以下のような併用パターンが考えられる。

パターン:RAGで概要把握 → MCPで正確性確認

このプロジェクトがMCPを選ぶ理由

7.1 プロジェクトの思想との整合

このプロジェクトの核心思想は「ブレない参照先」である(01-vision.md 参照)。

RAGは「おそらく関連する情報」を返す    → ブレる可能性がある
MCPは「確実に該当する情報」を返す      → ブレない

AIの出力に検証可能な根拠を持たせるためには、出典が明確で、構造化されたデータアクセスが不可欠である。これがこのプロジェクトがMCPを中心に据えている根本的な理由である。

7.2 MCPの3つの価値

このプロジェクトの文脈で、MCPが提供する価値を3つにまとめる。

  1. 正確性: ドメインの構造を理解したAPIで、正確な情報を取得できる
  2. 検証可能性: 出典(RFC番号、セクション番号等)が常に明示される
  3. 民主化: npmパッケージとして配布でき、誰でも同じ品質のアクセスを得られる

7.3 RAGを否定しているわけではない

重要な注意点として、このプロジェクトはRAGを否定しているわけではない。RAGは「大量の非構造化テキストから関連情報を見つける」という目的において、非常に強力な手法である。

ただし、AIの判断に「ブレない参照先」を与えるという目的においては、MCPのアプローチがより適切である。それぞれのパターンには適切な用途がある。

RAGの適切な用途:  「たくさんの文書から関連しそうなものを見つけたい」
MCPの適切な用途:  「特定の仕様・規格から正確な情報を取得したい」

→ 目的が違うので、優劣ではなく使い分け

まとめ

パターン選択の意思決定サマリー

設計時に最初に問うべき質問と、その答えに応じた推奨パターンを整理する。

最初に問うべき質問答え推奨パターン
対象データに明確な構造があるか?Yes → 構造化APIが存在するMCP
Yes → 存在しないが構築価値があるMCP を構築
No → 大量テキストの検索が必要RAG(+ Advanced RAG検討)
No → 少量の知識で十分Prompt Engineering / Skills
モデル自体の知識を変更する必要があるか?YesFine-tuning(コスト・運用負荷を覚悟)
複数ステップの自律的判断が必要か?YesAgentic AI(+ MCP/Skills で知識供給)

迷ったときは Prompt Engineering から始め、必要に応じて MCP → RAG → Agentic AI と段階的に採用する。最もリスクが低いパターンから着手するのが原則である。

核心メッセージ

  1. 生成AIにはさまざまな設計パターンがある — RAG、MCP、Fine-tuning、Agentic AI等、それぞれ異なる問題を解決する
  2. RAGは「テキストの類似度」で検索する — 大量の非構造化テキストから関連情報を見つけるのに強い
  3. MCPは「ドメインの構造」で検索する — 構造化されたAPIで正確な情報を取得する
  4. 「ブレない参照先」にはMCPが適する — 権威性・構造化・検証可能性・配布可能性でMCPが優位
  5. RAGとMCPは排他ではない — それぞれ適切な用途があり、併用も可能
  6. 各MCPサーバーはドメイン知識をコード化したもの — 単なるテキスト検索ではなく、構造の理解を提供する

今後注目されるパターン

本ページで扱ったパターンに加え、以下の手法が今後影響を持つ可能性がある。

パターン概要現状
ToolformerLLMが自律的に外部ツール呼び出しを学習する手法研究段階(Meta, 2023)
RETRO検索メカニズムをモデルアーキテクチャに組み込む研究段階(DeepMind)
Agentic Workflow複数のエージェントが協調して作業するワークフロー実用化が進行中

これらが成熟した際、本ページのパターン分類に統合する予定である。

関連ドキュメント

Released under the MIT License.