全体地図 — キーワードの位置と役割を 1 枚で見通す
LLM・Agent・Tool Calling・MCP・Skills・Workflow・Memory・Knowledge Graph・GraphRAG・RAG は、同格の並列概念ではない。それぞれに持ち場がある。
このドキュメントについて
企業への AI 導入では、多数のキーワードが同じレベルの「選択肢」として並べられがちである。しかし実際には、これらは役割の異なる部品であり、階層と依存関係を持つ。本ページはその見取り図を提供し、各キーワードが本サイトのどのセクションで扱われるかへの案内板を兼ねる。
対象読者: 本サイトを初めて読む人、AI 導入の全体像を掴みたい開発者・アーキテクト
1. 用語の関係図
| 用語 | 一言で | 対になる概念 |
|---|---|---|
| LLM | 予測する関数 | Agent(ループする主体) |
| Agent | 自律判断ループ | Workflow(固定手順) |
| Tool Calling | 呼び出しの仕組み | MCP(その標準規格) |
| Memory | 何を覚えるか | Context Window(揮発的) |
| Knowledge Graph | 関係の構造化 | ベクトル DB(類似度) |
| GraphRAG | 関係を辿る検索 | 通常の RAG(断片検索) |
2. 資源の種類 × アクセス手段
キーワードの多くは「どの資源に、どの手段でアクセスするか」の対応として整理できる。この図では Agent / Workflow をオーケストレーション側に置く。ただし II.1 五層 では Agent は担当の一つであり、資源スタックの頂点ではない。
| 資源の種類 | 性質 | アクセス手段 | 補足 | | --- | --- | --- | | 文書知識 | 非構造化・静的 | RAG | 「意味で探す」読み取り専用。文書横断は GraphRAG へ拡張 | | 業務データ | 構造化・動的 | DB(SQL / Semantic Layer) | 「正確な値を取る」読み取り。LLM はクエリを生成するだけ | | 業務操作 | 副作用あり | API | 書き込み・実行。「取り消せない操作」を含むため権限設計が必須 | | 関係知識 | グラフ構造 | Knowledge Graph / Memory | 「誰が何を担当し、何がどこに依存するか」。GraphRAG で検索する | | 複数処理の実行 | 上記の組み合わせ | Agent / Workflow | 資源を跨ぐオーケストレーション層。手順固定なら Workflow、判断が要るなら Agent |
IMPORTANT
この分類の価値は「読むか、書くか」が自然に分離される点にある。RAG と DB は参照(安全・冪等)、API は操作(副作用・要権限)。Agent に権限を渡す設計では、この境界がそのままリスク境界になる。詳細は Permission と Authority を参照。
NOTE
MCP はこの図で独立した行にならず、RAG / DB / API すべてのアクセス手段を統一する接続規格として横串に入る。Skills は Agent 層が参照する静的知識・手順書であり、アクセス手段ではなく「Agent の振る舞いの定義」に属する。
3. データフロー — 一方通行ではなく循環
2 本の還流が要点である。Business Process からは新しい Data が生まれ、Agent の実行経験は Memory に蓄積されて Knowledge を育てる。この還流を欠くと「毎回ゼロから調べ直す」scatter-gather 問題に陥る。
WARNING
根本的にデータが散在している場合、AI は解決策にならない。 RAG も Agent も「散在した汚いデータ」の上に載せると散在を高速に再生産するだけである。まずデータ整備(Knowledge Graph による関係の一元化、Semantic Layer による指標定義の一元化)が先行する。
4. 五層との対応
本ページの図は「資源・アクセス・循環」の見取り図である。本書の本論の地図は II.1 五層 である。軸が違う。本地図を五層の別名だと思ってはならない。
| 五層 | 本ページでの現れ方 |
|---|---|
| Doctrine | 図のノードには出さない。目的・禁止・優先順位の物差し。案内は下表と III.3 Doctrine |
| Agent | オーケストレーション側。五層では作業の理解と割り振りの担当であり、他層を束ねる上位スタックではない |
| Skills | アクセス手段ではない。Agent が参照する静的な知識・手順。図では横に出さない |
| Memory | 関係知識と、実行経験の還流の一端 |
| MCP | RAG / DB / API を貫く接続の規格(横串) |
実行境界(Harness / Hooks)は五層のどれでもない。動作の節目に機械が割り込み、止める・記録する・後処理する機構である。層を増やさない。
NOTE
迷ったら、まず五層で「誰の担当か」を決める。そのあと本ページで「どの資源に、読むか書くか」を決める。順序を逆にすると、接続の話と担当の話が混ざる。
5. キーワード → 本サイトの担当セクション
| キーワード | 担当 | 位置づけ |
|---|---|---|
| LLM(構造的制約) | I.1 制約の要約 / 姉妹サイト understanding-llm | Why と前提 |
| 五層の担当分け | II.1 五層 / II.2 配置基準 | 本論の本地図 |
| Doctrine(判断基準) | III.3 Doctrine | 目的・禁止・優先順位 |
| Skills | III.1 Skills | 静的知識・手順書 |
| MCP / Tool Calling | III.2 MCP | 接続の実装メカニズム |
| Memory / Knowledge Graph | III.4 Memory | 記憶と関係の残り方 |
| Agent / Sub-agent / A2A | III.5 Agent | 実行主体の分類と設計 |
| RAG / GraphRAG | 本ページ §2(専用ページは持たない) | 文書知識への読み取り。型の話は IV.1 パターン |
| Semantic Layer | MCP / Semantic Layer | 構造化データアクセスの設計規律 |
| Workflow | Workflows | 固定手順のパターン集 |
| パターン・限界 | IV.1 パターン / IV.2 限界 | 型の選択と届く範囲 |
| Permission / Authority | Permission と Authority | 権限と権威の分離 |
| Hooks(実行時フック) | Hooks | ハーネス側の実行境界。層ではない |
TIP
手段選択に迷ったら 3 つの軸で判定できる: 鮮度(静的なら RAG、動的なら DB/API)、判断の量(ゼロなら Workflow、多いなら Agent)、データの状態(汚いならまず整備 — AI は最後)。
関連ドキュメント
- 概要 (情報基盤) — 本セクションの位置づけと構成
- II.1 五層 — 本論の本地図(担当の分け方)
- II.2 配置基準 — 何をどこへ置くか
- Hooks(実行時フック) — 層ではない実行境界
- IV.1 パターン — どの型をいつ選ぶか
さらに深く: なぜ LLM には外部の情報基盤が必要なのか
本ページは情報アーキテクチャの 構造 (What/How) を扱った。「なぜ LLM 単体では足りないのか」を LLM の構造的制約から理解したい場合は、姉妹サイトを参照。
- understanding-llm (日本語トップ) — Context Rot・Knowledge Boundary 等、外部参照が必要になる 8 つの構造的制約
最終更新: 2026年8月