IV.1 パターン
第IV部の位置づけ
第III部までで、五層の担当を決めた。第IV部は、現場でよく出る型と、届かない線を見る。本章は、知識の限界を補う型の選び方である。RAG の実装手順は、ここでは切らない。
1.1 よく出る型
モデルの中に無い知識を、外から足す型はいくつかある。排他ではない。一つの仕事に、いくつかを重ねてよい。
| 型 | 何をするか | 向くとき | 壊れやすいとき |
|---|---|---|---|
| プロンプト | 今回の聞き方を整える | 小さく試す。トーンを決める | 全部をここに書く |
| RAG | 文書を切って検索し、答えのそばに置く | 社内の説明文、マニュアル | 条文のように、場所を指して引用したいとき |
| MCP | 原文や API へ、決まった形でつなぐ | 法令、RFC、いまの値 | サーバが止まったとき |
| GraphRAG | 関係をグラフにしてから探す | 「だれと何がつながるか」 | グラフの品質が悪いとき |
| Fine-tuning | モデルの中身を書き換える | 言い回しや形式を、長く染み込ませる | 法令や仕様がよく変わるとき |
| Agentic | 計画し、ツールを使い、確かめる | 複数の段がある仕事 | 判断が要らない単純作業に載せたとき |
プロンプトは、どの型でも土台になる。Agent は、RAG と MCP を組み合わせて使うことが多い。
1.2 RAG と MCP
両方とも、モデルの外の知識を使う。違いの中心は、切って似た文を探すか、場所を指して取るか、である。
「RFC 6455 の Close code 1006 は何か」を、文書の切れ端の検索だけで取ると、隣の番号が混ざることがある。MCP で節を指定して取ると、出典を付けられる。
社内 Wiki の「あのときの説明」は、RAG で足りることが多い。法令の条は、MCP で原文へつなぐ。関係の網が仕事の本体なら、Memory や GraphRAG の側を見る。
RAG を「標準」だと思ってはならない。検索と生成を組んだ型の一つである。チャンクの切り方が悪いと、文脈が落ちる。構造のある原文を、切れ端の検索だけで済ませない方がよい(SHOULD / するのがよい)。
Fine-tuning で、よく変わる知識をモデルの中に焼き込んではならない(MUST NOT / してはならない)。法改正のたびに学習し直す設計は、運用が先に壊れる。
1.3 やってはいけない寄せ方
| 寄せ方 | 起きること |
|---|---|
| 何でも RAG | 条や表が、切れ端になってずれる |
| 何でもエージェント | 単純な作業が重くなり、動きが読みにくくなる |
| 何でも Fine-tuning | 新しさに追従できない |
| 何でもプロンプト | 毎回の文が肥え、本来載せたい知識の席が無くなる |
判断が要らない処理は、普通のプログラムのままでよい。これは第II部の配置と同じである。
1.4 五層との関係
パターンは、層の別名ではない。RAG は、多くの場合 Agent の中の取り方である。MCP は層でもあり、型でもある。本書では層の名前を優先する。型の名前は、現場の言葉に合わせるときに使う。
組み合わせの現場向けの話は、構成パターン に残してある。
1.5 要約
型は重ねてよい。原文へたどるなら MCP、説明文の検索なら RAG、関係の残りなら Memory、言い回しの染み込みなら Fine-tuning、段のある仕事なら Agent、である。銀の弾丸は無い。壊れ方を見て選ぶ。
手段選択の補助(鮮度・判断の量・データの状態)は 全体地図 にも短い判定がある。
関連ドキュメント
本章は型である。展開と判断は strategy に残してある。
全体地図 — 資源×アクセスと手段選択の三軸
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